211003 槍見三昧鏡平


今回の企画は登頂登山ではありません。秋の鏡平で槍見三昧をしようというものです。

10月1日(金)の午後に出発し、その日は高山市内で1泊します。観光目的ではありませんので、素泊まり低料金の宿です。(結果的には、とてもいいホテルでした。)

10月2日(土)に新穂高温泉から入山し、標高2300mにある鏡平山荘に2泊、4日に下山して帰宅という日程です。

出発を控えて気がかりがありました。台風です。なんだか5年前の双六岳登山の時と同じ感じです。その時は台風一過の好天になったのですが…。
今回の台風も9月30日に通過し、10月2日からの3日間は絶好の登山日和になりそうです。高い山は紅葉の盛り、期待が膨らみます。

 
さて、2日の朝。
新穂高温泉の登山者用無料駐車場に着いてみると、満車です。土曜日とはいえ、紅葉シーズンとはいえ、コロナのこともあるしと高をくくっていたのですが、甘かったか。
鍋平の登山者用無料駐車場まで上がり、そこから結構な距離を歩いてロープウェイ乗り場まで行きます。9時35分発の下りロープウェイで温泉まで下り、45分に登山開始です。当初予定より45分ばかり遅くなりましたが、夕方までに山小屋に着けばいいのですから慌てることはありません。
出発地点の標高は1117m、到着地点の標高は2300m。標高差約1200mを、休憩時間も含めて5時間半ほどで登る計画です。

標高1400mにあるわさび平小屋までのコースタイムは1時間20分。300mの登りですが、林道ですから坂登りのようなものです。途中の道脇には何カ所か石を集めて置かれていました。去る9月19日にあった岐阜県飛騨地方を震源地とする震度4の地震の爪痕です。

10時57分、わさび平小屋着。
軽く補食して休憩の後、11時17分出発。
左俣林道を20分ほど進んだところが小池新道の入り口で、ここからが本当の登山です。
わさび平と鏡平の標高差は900mで、コースタイムは4時間10分です。気候と天候と景色に恵まれたせいか、最近のスローペースにしては意外や意外、3時間47分後の15時04分には鏡池の畔にいました。

標高2300mの鏡平は、秋まっただ中。黄葉(紅葉)が見ごろを迎えていました。
鏡池の周りも色づきが進み、青い空と槍ヶ岳から穂高連峰の影を映して、それはもう絵画の世界でした。

鏡池のすぐそばに立つ山小屋、鏡平山荘は5年前の双六岳登山の折に利用した所です。しかし、昨年のコロナ禍休業中に改築・改装され、いたって快適な小屋に生まれ変わっていました。ただ、生ビールの季節が終わってしまっていたことを除けば…。

10月2日。9時45分、ロープウェイ乗り場下から登山開始。 10時57分、わさび平小屋
12時32分、秩父沢(標高1720m)。槍ヶ岳が見える。 秩父沢。この角度、子槍の存在感がすごい。
14時36分、熊の踊り場(標高約2180m)。黄葉(紅葉)が見ごろを迎えている。 熊の踊り場。逆光に黄葉が映える。
15時4分、鏡池に到着。秋の色づき、秋の雲、秋の空気、そして槍ヶ岳。そのすべてを水面に映す。 黄の彩りが一幅の絵に華やぎを添える。
穂高連峰。 左が南岳。大キレットをはさんで北穂高岳、立木に隠れるいるのが涸沢岳、右が奥穂高岳。
16時45分。鏡平山荘の前の広場で缶ビールを飲んでいると、笠ヶ岳の方向から雷鳴が聞こえてくる。日が当たらなくなると寒い。 槍ヶ岳の上空に雲が出てきた。
17時2分。槍から南岳の上空が雲に覆われる。時折、南岳に日が差す。 南岳小屋の窓ガラスが反射して輝く。このあと、稜線はすっかり雲に包まれ、そのまま闇に落ちていった。
鏡平山荘では、2人用の部屋を個室としてリザーブしてくれました。定員の削減などもあって、料金は1泊2食で13000円に上がりました。しかし、個室料金は3000円と割安で、2泊目は1500円に割り引いてくれたし、夕食のおかずも何品かを変更してくれました。
個室は何と言っても気楽です。隣の人に気遣うこともないし、頭上を気にする必要もないし、おまけに同じ部屋に連泊ですから荷物を片付けずに出かけることもできます。

建物の構造上の問題でしょうか。廊下を人が歩くと足音が鳴り響きます。2日はほとんど満室で、夜遅くまでこの音に悩まされました。

10月3日、浅い眠りから目覚めです。
2人室には大きなサッシ窓があります。カーテンを開けると玄関前の広場が見え、その先の正面に槍ヶ岳があります。部屋の窓を開ければ、いつでも槍の写真が撮れるわけです。
5時27分、槍ヶ岳の上空に新月間近の細い月がありました。
朝食の後、鏡池に行ってみました。日の出を撮ります。槍の右辺りが最も明るいのでそこから日が昇りそうです。やがて西鎌尾根の峰に日が差し始め、槍に斜光の帯ができました。
そして、6時44分、槍ヶ岳と大喰岳の鞍部からやや大喰に寄ったところからご来光です。と同時に、鏡池の水面にダイヤモンドの輝きが生まれました。

 
10月3日、5時27分。槍ヶ岳の上空に細い月。 5時28分。槍ヶ岳の頂上に6人が立っていて、直下のハシゴに取り付こうとしている人が1人。槍ヶ岳山荘の明かりが見える。
 山荘前の黄葉と槍ヶ岳。 5時43分。槍ヶ岳の頂上の人が14人に増えている。上部に2人、中ごろに3人、登攀中の人が見える。槍は朝のラッシュ時を迎えたようだ。 
6時35分。静寂の鏡池。 鏡池と穂高連峰。
6時42分、槍ヶ岳に朝の光が差し始める。  朝の光差す槍と鏡池。 
6時44分、日の出。  槍とご来光と鏡池と@ 
槍とご来光と鏡池とA 槍とご来光と鏡池とB 
7時30分、樅沢岳に向けて出発。

樅沢岳(標高2755m)は、双六小屋から槍ヶ岳に向かうルートの最初のピークです。登山目的の山ではありませんが、西鎌尾根越しの槍ヶ岳のビューポイントとして知られています。

鏡平の標高は2300mで、そこから双六岳登山道と笠ヶ岳登山道の分岐点・弓折乗越(2560m)まで一気に登ります。そこからアップダウンを繰り返しながら2622m地点まで登り、その後双六小屋のある2550m地点まで下ります。ここまでのコースタイムは2時間10分。双六小屋の目の前が樅沢岳の登り口で、2755mのビューポイントまで標高差205m、コースタイム45分の急登です。

ざっくりと言えば、累積標高差600m(往復で1200m)を片道3時間かけて、西鎌尾根越しの槍ヶ岳を撮りに行くわけです。まあ、物好き以外の何ものでもありません。

双六小屋の前で休憩し、樅沢への登りを見上げたときには、同行の妻はあまり乗り気ではありませんでした。仕方なくと言った方がいいでしょう。それでも何とかピークに立ち、槍ヶ岳の雄姿が見えた瞬間、目の輝きも声の調子もすべてが一変しました。
樅沢岳と小屋を挟んだ後方が双六岳で、ここからの槍ヶ岳は5年前に見ています。感動的でした。しかし、そことは感動の度合いが違います。地理的距離がいくらか槍ヶ岳に近いということもあるでしょうが、それだけではありません。槍の穂先と樅沢のピークが、西鎌尾根で一続きになって迫ってくるのです。

双六小屋と槍ヶ岳山荘のある槍の肩を結ぶ西鎌尾根ルートは、槍に向かう標準タイムが5時間余、双六に向かう標準タイムが4時間弱です。
自分では眺めるだけで十分ですが、山行中に2組の強者たちに会いました。1組は若い男性2人のパーティーで、双六小屋の手前30分あたりで出会いました。9時半頃です。彼らは4時に槍のテント場を出て西鎌尾根を通過し、これから笠ヶ岳へ向かうと言っていました。双六から笠までは6時間ほどの行程です。
もう1組は若い男女2人のパーティーで、11時半過ぎに樅沢から双六にほぼ下った所で出会いました。「これから西鎌を越えるの?」と聞いたら、「はい、急がないとちょっとヤバいんです。」と彼。多分、朝早くわらび沢を出てここまで来たのでしょう。槍に着くのは17時、それからテント設営です。

6時48分。鏡平山荘脇のひょうたん池に樅沢岳が映る。正面の山が樅沢岳で、左から登って台上の右端まで行き、西鎌尾根を眺望する。 ひょうたん池に映る樅沢岳。
7時30分、出発。ひょうたん池周辺の黄葉はピークを迎えている。 池畔のチングルマも紅葉している。
7時54分。ナナカマドの紅葉と槍ヶ岳。 8時15分。中段の台上に鏡平山荘が見える。
鏡平は秋たけなわ。山荘の左がひょうたん池で、やや離れた右が鏡池。 西鎌尾根を真横に近い右斜めに眺めている。
正面に見えているのが穂高連峰。  左から北穂高岳、涸沢岳、奥穂高岳。 
8時40分。双六岳が見えた。  鷲羽岳。 
振り返ると乗鞍岳が見える。  乗鞍岳と右後方に御嶽山が見える。 
乗鞍岳。乗鞍コロナ観測所のドームが光っている。  8時46分。西鎌尾根と槍ヶ岳。槍の穂先から左に延びるのが北鎌尾根。 
鷲羽岳と背後に水晶岳(黒岳)が見える。  9時、行く手に双六小屋(鷲羽岳の真下に茶色っぽく写ってる)が見えた。見えてからが遠い。あと1時間かかる。 
小屋の左が双六岳への登りで、右が西鎌尾根に続く登り口。大きく見えているのが樅沢岳で、これから小屋まで下って登り返す。右端にあるのは前樅沢岳。
赤く色づいたナナカマドの実、背後には双六岳。  9時4分。槍の北鎌尾根先の後方に燕岳。 
燕岳の右方に燕山荘が見える。  9時15分。進行方向の左後方に笠ヶ岳の山頂部が見える。頂上直下に建つ笠ヶ岳山荘もはっきり見えている。
その昔、播隆上人はこの山に登った折に彼方に錐形の峰(槍ヶ岳)を見て、開山を決意した。 
はるか彼方、雲海の上の方に白山が浮かんでいる。  9時16分。 
双六小屋がちょっとだけ近くなった。  水晶岳(黒岳)。水晶岳の名の由来は、昔この山で水晶が採取されたから。別名の黒岳は、山肌が黒いから。 
9時29分。双六岳の下の斜面がきれいに黄葉している。  9時49分。テント場には色とりどりのテントが張られている。その奥に双六小屋。 
双六小屋の前に立つと、正面に鷲羽岳。右に進んで白っぽく見えるのが野口五郎岳。  10時9分、樅沢岳に向けて登山再開。見上げるような急斜面を小刻みにジグザグしながら高度を上げていきます。頂上は錐形のさらに先、45分の登りになります。 
中央に鷲羽岳。右に野口五郎岳。左後方祖父(じい)岳の奥に薬師岳。  野口五郎岳。 
鷲羽岳。これまで見てきた鷲羽岳からすこし右に回り込んだアングルになる。 薬師岳。 
薬師岳。  右に鷲羽岳、中央鞍部に三俣山荘、左に三俣蓮華岳。 
三俣山荘。  三俣蓮華岳。 
笠ヶ岳。  見下ろすと、鏡平山荘。 
野口五郎岳。同年の歌手・野口五郎は岐阜県出身で、芸名はこの山名に由来します。  野口五郎岳。 
西鎌尾根越しに見る槍ヶ岳。  これを撮りに登ってきたのだから、全カットをアップ。 
   
   
   
   
   
   
11時58分。双六小屋でラーメンを食す。  12時20分。双六小屋の前から燕山荘を撮って、いざ下山。 
13時12分。名残の西鎌尾根と槍ヶ岳。  午後になると光の塩梅が良くなり、槍の立体感が増す。 
13時33分。花見平から見る槍ヶ岳。  14時1分。弓折分岐から見る槍ヶ岳。 
弓折分岐から弓折岳に向かう道脇の黄葉。  午後の光に黄葉が輝く。 
雲一つない秋空が終日続き、槍の夕照への期待が膨らみます。
アーベントロートは晴れていることが絶対条件です。しかし、その日の水蒸気とかの関係もあって、きれいに夕照することはあまりないようです。小屋で5年間働いているという男性は、ほとんど見たことがないと言っていました。そうすると、5年前に訪れたたった1日に、小屋の人がカメラを持って飛び出すほどの光景に出会えたのは奇跡に近い幸運だったようです。

鏡平山荘前のテーブルで缶ビールを飲み、鏡池の様子を見に行きました。青空と黄葉と槍。やっぱり何度見てもいいです。

夕食は5時でした。前日の暮れ方からすると、微妙な時間帯です。
食堂の窓から槍が見えます。少しずつ赤っぽくなる様子に気が気ではありません。急ぎ食べ終えて部屋に戻ると、どうやらアーベントロートのピークのようです。夢中でシャッターを押し、幾枚かの写真に収めました。5年前のアーベントロートと比べると、幾分華やかさがないように感じます。とは言え、十分すぎるほどの感動です。
小走りで鏡池を目指します。すでに夕照の赤は黒みを帯びかけていますが、これもまた見事な景観です。
小屋の窓から撮った最初の1枚が17時23分、鏡池で撮った最後の1枚が17時28分。この間わずか5分。あっという間のドラマです。

16時20分、鏡池。  水面は鏡となり、槍の穂先が綺麗に映っている。 
穂高連峰。  槍ヶ岳。 
槍ヶ岳山荘。  槍ヶ岳山荘の窓ガラスに西日が反射する。
槍ヶ岳頂上。左に祠が見え、4人が立っている。右に長いハシゴが2本見え、下側のハシゴに2人確認できる。  鏡池に映る逆さ槍。 
北穂高岳。  北穂高小屋。小屋の横に2人、頂上に2人が見える。 
中央が奥穂高岳。左が涸沢岳、右がジャンダルム。  奥穂高岳。 
16時46分、西日の樅沢岳とひょうたん池。  斜光の中の樅沢岳。登ってきた山と思うと親しみを感じる。 
17時23分。槍ヶ岳から南岳の稜線がアーベントロートに染まる。  アーベントロートを撮った全カットをアップ。 
   
   
2016年9月1日のアーベントロート   2016年9月1日のアーベントロート
17時27分、鏡池にアーベントロートに染まる槍が映る。  鏡池での全カットをアップ。 
   
   
   
 2016年9月1日のアーベントロート  2016年9月1日のアーベントロート
明けて10月4日は、5時朝食、6時下山開始。
あとは、新穂高温泉の湯に浸かり、家路につくのみです。
 
10月4日、5時23分。  槍ヶ岳の上空に新月間近の細い月が見える。 



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