立山&別山縦走記

2019年8月25日〜27日

 8月25日、11時半ごろに立山駅下の駐車場に到着。12時20分発の立山ケーブルカーで美女平へ。そこから40分発の高原バスで室堂へ。1時35分、標高2450mの室堂に降り立つ。立山縦走登山の始まりである。
  今回のコースは…

■8月25日は室堂のバスターミナルをスタートして一ノ越まで。一の越山荘泊。

■26日は一ノ越から雄山に登り、大汝山、富士ノ折立、真砂岳を経て内蔵助山荘まで。

■27日は内蔵助山荘から別山に登り、雷鳥沢に下って室堂に戻る。


という、2泊3日の山行である。





地図 by YAMAP
 夏休み最後の日曜日の午後、室堂のターミナルは帰路に向かう人でごった返していた。外に出てみると、霧が下りていて立山の山頂部は見えない。この日の目的地である一ノ越が白いベールの向こうに見えている。室堂の標高が2450m、一ノ越が2700mだから250mの上りだ。初日はほんの足慣らし、ちょうど1時間で小屋に着いた。
 小屋にはゆとりがあって、結果的に個室になった。夕方には雨が降り、夜中にも降った。それより何より、寒い。半袖Tシャツの上に長袖のシャツを着て歩いていたのだが、部屋ではダウンを着て、さらにその上にレインウェアを羽織った。足も冷たい。靴下を重ね履きし、それでも足りないので布団に潜り込んだ。気温は5℃くらいまで下がったようだ。
 
8月25日、午後1時38分。室堂に立つ。立山は霧の中。 一の越山荘が見える。左の斜面の先が雄山。
チングルマ チングルマ
タテヤマリンドウ  トリカブト
ミヤマダイコンソウ ヨツバシオガマ
雄山 午後2時38分、一の越山荘に到着。
 8月26日朝。窓の外は晴れている。
 雄山の日の出は5時10分、小屋からはその雄山に隠れてご来光は見えない。部屋の窓は南東に開けており、槍ヶ岳や穂高連峰が見渡せた。部屋の窓から明け行く槍穂を見るというのは、いかにも贅沢である。室堂山荘の風呂を捨てて一ノ越まで上がったのは正解だった。
 7時5分、雄山へ向けて出発。バスが上がってくる前なので人は少なめとは言うものの、それでもちょっとした行列登山になっていた。急なジグザグに人が連なっている様は、富士登山の画を想起させる。やがていったん緩やかにり、ここからもう一度急斜面・二ノ越を登る。一ノ越から標高差約300mを上がると雄山神社の社務所があり、8時2分到着。
 雄山の頂上(3003m)には立山頂上雄山神社の祠があり、500円を払って登拝すると神官がお祓いをしてくれる。まあ折角だからというのもあるし、そもそも登拝しないと山頂を踏めないというのもあって、祠まで上がった。世の中には強者がいるもので、私たちが着いた時ここで式を挙げたカップルに出会った。花嫁は社務所で着物に着替えて、祠まで上がったらしい。天晴れ。
 神社の脇の細道を少し下り、上り返したところが大汝山である。立山信仰もあって、一般に立山と呼んでいるのは雄山のことを指す。しかし正確に言うと「立山」という名の山は存在せず、雄山(3003m)・大汝山(3015m)・富士ノ折立(2999m)の3山の総称が「立山」なのである。したがって、信仰上の立山は雄山であり、登山という側面での立山は最高峰の大汝山ということになる。とまあ講釈を言っている間に30分で大汝山着。時刻は9時05分。
 大汝山から少し下って少し登るとおよそ15分。9時44分、富士ノ折立の裾に到着。そこから山頂までは急な岩場で、このたびはスルー。
 富士ノ折立の裾というのが標高2970mほどあって、ここから標高2810mあたりまで一気に下る。雄山への登りが「立山」の登りなら、この下りは「立山」の下りである。キツイ。
 富士ノ折立の下りからは、行く手の真砂岳も宿泊場所の内蔵助山荘もよく見える。その道はきわめて平坦に見える。ところがどうだろう。最低鞍部に着いてみると、目の前に真砂岳が聳えているではないか。もっとも真砂岳は標高2861mの山だから、標高差では50mほどの登りでしかない。しかし、ほぼフラットに見えていたものが聳えて見えると、心理的には50mでは済まない。10時10分に富士ノ折立を出て、10時57分に真砂岳山頂に到着。登りの標準所要時間程度の歩行速度である。ここで10分ほど休んで、10分ほど進むと内蔵助山荘。1日の行程が短いものだから、はや終了。時刻は11時19分。チェックインは1番か。
 この日の内蔵助山荘は盛況で、6人部屋に6人が宿泊することになった。同室の4人はというと、お二人は私たちとほぼ同行程を室堂から上がってこられた東京のご夫婦。年は5つほど上か。あとのお二人は4時頃に小屋に着かれた東京のご夫婦。この方たちは剱岳に登ってこられた強者で、翌朝は黒部ダムへのロングルートを下りて行かれた。ご主人は70代になられているか。人の縁(えにし)は不思議なもので、2組の東京組は商店街の話題が理解し合えるご近所さんだった。
 内蔵助山荘の標高は2800m近くで一ノ越よりも100m高所だったが、この日は布団をはねて寝るほどの一夜だった。
8月26日、午前5時1分。槍ヶ岳から穂高連峰の稜線。右のコブがジャンダルム。 5時23分、日の出直後の陽光が鷲羽岳(標高2924m、百名山)と槍ヶ岳(標高3180m、百名山)に届く。
5時20分、朝一番の陽光が薬師岳(標高2926m、百名山)と黒部五郎岳(薬師の後方。標高2840m、百名山)を赤く染める。 5時36分、槍・穂高連峰は朝の光に。穂高は左端が北穂高岳(標高3108m)で中央が涸沢岳(標高3110m)で、その奥に奥穂高岳(標高3190m、百名山)、その右がジャンダルム(標高3163m)。
7時5分、行動開始。小屋の前から室堂平を望む。雄山が影を落とし、その先にホテル立山が見える。後方は大日連山。 薬師岳、威風堂々。
薬師の右、浄土山の際に笠ヶ岳(標高2898m、百名山)が浮かんでいる。どこから見ても秀麗な山容だ。 一ノ越の急登を行く。前方にツアー登山の列が見える。
道はいったん緩やかになり、二ノ越の急登に続く。雄山神社の社務所が見える。 8時2分、雄山頂上のすぐ下、社務所前に到着。
雄山神社では若いカップルが式を挙げていた。 ヘリの荷物が到着。彼方に槍・穂高が見える。
手前が鷲羽岳から三俣蓮華・黒部五郎に続く稜線。後方が槍ヶ岳。槍の左は大天井岳(標高2922m)か。右に穂高連峰があって、さらに右は西穂高岳(標高2909m)のようだ。 立山頂上雄山神社に登拝。神官が祝詞をあげ、そのあと参拝者の道中安全を祈願してお祓いが行われる。 
雄山神社の祠の脇に「雄山頂上」のプレートがある。標高3003mには、雄山神社に登拝しないと立てない。プレートの後方に剱岳、眼前に大汝山が見える。  剱岳(標高2999m、百名山)の眺め。山頂から北に延びる岩稜が荒々しい。 
雄山頂上にて。目の前に立山最高峰の大汝山(標高3015m、「立山」として百名山) 、左奥が明日登る別山(標高2880m)、最奥が剱岳。 大汝山頂上。一番左の石の上に頂上の標識がある。左下の青屋根は大汝休憩所。 
大汝山頂上(標高3015m)  大汝山から大日岳を望む。雲の下には富山市街と富山湾が広がる。大日の下の白く見えるところが地獄谷、青いのがミクリガ池、 池の左にホテル立山が見える。 
反対方向に目を転じると、眼下に黒部湖が見える。ダム湖の左端が堰堤で、木立の影あたりから大量の水が吐き出されているはずだ。手前の建物は、立山ロープウェイの大観峰。 黒部湖の後方が後立山連峰で、真ん中が白馬岳(標高2932m、百名山)。白馬岳の左に見えるのが旭岳(標高2867m)、右は鑓ヶ岳(標高2903m)のようだ。
白馬岳(標高2932m、百名山) 。頂上直下の白馬山荘もくっきりと見えている。 手前左のピークが真砂岳(標高2861m)、稜線を右に進んだ下に内蔵助山荘が位置する。中段の左が別山南峰(標高2874m)で稜線の右が北峰(標高2880m)。さらに後方に剱岳。 
振り返ると雄山と大汝山に続く登山道が見える。  雄山頂上の祠と社務所、後方には薬師岳。 
 9時44分、富士ノ折立頂上直下の登山道にて。 富士ノ折立の急斜面を一気に下る。急斜面の先にはフラットな稜線歩きが待っているように見える。 
急斜面をほぼ下りきったところから富士ノ折立を振り返る。  下りきってみると、その先はフラットではなく真砂岳が聳えていた。 
トウヤクリンドウ  トウヤクリンドウ 
内蔵助カール。年に4センチ程度流れ下っているそうで、国内5つ目の氷河に認定された。  10時57分、真砂岳(標高2861m)。 
 真砂岳の下りから別山を望む。 11時19分、内蔵助山荘到着。 
 8月27日の日の出時刻は5時10分。4時半に起きて、鹿島槍ヶ岳の右方(方角で言えば南の方)から出るご来光を待った。日の出までの20分間、雲と光の織りなす彩(あや)は、いつ見ても何度見ても神々しい。
 雲間から朝の光が差す頃、同室の1組が黒部に向けて下りて行かれるのが見えた。

 唐突だが、今回の山行で珍しい光景を見た。立山の小屋はどこもトイレが近代化され、処理水を循環する水洗式になっている。雑排水も処理槽に入っていくのだろう。洗面所で歯磨きをするのに、歯磨き粉を使う人を複数目にした。山小屋では歯磨き粉を使わないのが常識だから、初めて見る光景だ。そこで、トイレの処理槽に戻る。歯磨き粉の人たちは、処理槽のことを知って歯磨き粉を持参したのだろうか。それとも、「常識」が常識になっていない人が、登りやすい立山に来ているということだろうか。歯磨きの珍光景と言えば、極めつけは電動歯ブラシ。モーター音に振り向くと、女性が電動歯ブラシに歯磨き粉をつけてせっせと磨いておられた。モーター音つながりで、珍光景をもう一つ。なんと電動シェーバーでヒゲを剃っている男性がいた。髭剃りは環境に負荷をかけないから個人の自由だが、ちょっと唖然とした。とにもかくにも、立山は特別な山のようだ。
 
8月27日午前4時56分、後立山連峰の夜明け。中央が鑓ヶ岳、左に白馬岳。  鹿島槍ヶ岳。特徴である双耳峰の1つだけが見えている。 
 鹿島槍ヶ岳(標高2889m、百名山) 鹿島槍ヶ岳 
 富山市街の灯りが見える。 五竜岳(標高2814m、百名山) 。左に薄く妙高山が見える。
 唐松岳(標高2696m) 5時19分、鹿島槍ヶ岳の南から朝日が昇る。 
南アルプス遠望。「写真A」  写真Aの左部分。中央のピークが甲斐駒ヶ岳(標高2967m、百名山) 
写真Aの中央部分。左が北岳(標高3193m、百名山) 、右端が間ノ岳(標高3190m、百名山)、その間前方に仙丈ヶ岳(標高333m、百名山)が位置する。  写真Aの右端部分。塩見岳(標高3047m、百名山)
富士山(標高3776m、百名山)も見えた。  妙高山(標高2454m、百名山)
 6時15分、同室のもう1組から15分遅れで小屋を発った。
 小屋から真砂岳の中腹(2830m付近)まで登り、そこから標高2730mあたりまで下る。そして、上り返すと別山南峰(2874m)で、7時15分着。ここにザックを置いて、剱岳展望地である北峰(2880m)まで足を延ばす。わずか5分ほどの距離だ。目の前に剱岳が広がり、頂上に立つ幾人もの登頂者や有名や「カニのタテバイ」「カニのヨコバイ」がすぐそこに見える。自分がそこに立つことなど200%ないが、いや、ないがゆえに憧れる。振り返ると、雄山からここに続く道が見えている。
 のんびり山旅は、人との出会いを生む。同室だった東京のお二人とは下山中に何度か言葉を交わした。この方たちのホームページには、夥しい数の山行記録がアップされている。山はもはや定年後の生活の一部という感じだ。別山では金沢の女性と山口の男性に巡り合った。金沢の女性は細身で、私たちよりやや年上か。飄々と歩を進め、外見とは違って健脚のようだ。向こうに見える大日連山を見て、去年そこから称名滝へ下ったと平然と仰る。大日の小屋から1500m以上の下りだ。この方、剱御前小舎からは雷鳥沢の急坂を、やはり平然と下って行かれた。山口の男性は、40代前半か。新幹線と特急を乗り継いで立山に入り、これから下山して明日は出勤だという。遠いから年に1度と言いながら、見渡せる範囲の山名を残らずご教示いただいた。思うに若い頃に北アルプスとの出会いがあって、20年来せっせと通い続けておられるのだろう。今ここにいる人のそれぞれに日常があり、歴史がある。生活圏も日常も歴史も違うのだけれど、山の頂に立ち同じ景色を眺める時の共感、共振、共有…。これもまた山旅の魅力である。
 7時50分過ぎに別山を出発、8時19分に標高2750m付近に建つ剱御前小舎の前に下りた。そこで1つの断を下した。と言うのは、この日はゆっくり雷鳥沢まで下り、ヒュッテの温泉に浸かった後は、立山を眺めながらのんびり生ビールという予定にしていた。しかし、天気予報は午後から下り坂で、明日は間違いなく雨。ここは一気に下山した方が賢明だ。ヒュッテに電話して、とりあえず予約をキャンセルした。
 剱岳の眺めを惜しみつつ、8時30分下山再開。小舎の前から標高2380mほどの新室堂乗越を経由して、標高2260mほどの沢まで下りる。雷鳥沢の下りと比べると三角形の2辺を歩く分だけ緩いとは言え、別山からは600mの下りだ。乗越経由が9時38分、沢には10時7分に着いた。流れの畔に荷を下ろし、予約サイトで今宵の宿を探した。砺波にあるヒュッテよりも安価な宿を予約した。
 あとは一気に下山と言いたいところだが、沢から室堂までは200mの登りだ。とりわけキャンプ場からの標高差100mの階段は、長い下りの後の足にこたえる。ミクリガ池の休憩所でソフトクリームを食べ、観光客の間を縫って11時35分バスターミナルに到着。12時発のバスで美女平へ。バスが早く着いたのか、12時40分のケーブルカーに乗れた。25日の12時20分にケーブルカーに乗ってから丸2日、立山縦走の山旅は終わった。
真砂岳の山頂部まで登って別山との鞍部まで下る。 大日岳の向こうに富山湾が見える。
7時15分、別山南峰(標高2874m)に到着。 別山北峰(標高2880m)と剱岳。
別山北峰から剱岳を望む。ここは剱岳展望地。 剱岳山頂部
剱岳頂上の祠と頂に立つ人たち 剱御前小舎と剱御前(標高2777m)、後方には大日岳と富山の街。
剱御前と大日三山。大日の山は、手前右が奥大日岳(標高2606m)で左が中大日岳(標高2500m)、右鞍部に大日小屋があって奥が大日岳(標高2501m)。 内蔵助山荘と富士ノ折立。すぐ後方が鷲羽岳から延びる稜線で、さらに後方の左端が燕岳(標高2763m)、中央が大天井岳(標高2922m)でそこから左奥に常念岳(標高2857m、百名山)が連なる。
雄山、大汝山、富士ノ折立。手前に真砂岳。右後方に笠ヶ岳が霞んでいる。 雄山頂上
雄山頂上 笠ヶ岳
白馬岳(左から2つ目のピーク) 白馬鑓ヶ岳
鹿島槍ヶ岳 右が針ノ木岳(標高2821m)、左がスバリ岳(標高2752m)、中央奥が蓮華岳(標高2799m)。
別山から剱御前へのルートを望む。 雷鳥沢を見下ろす。
地獄谷周辺。左が雷鳥荘、真ん中が雷鳥沢ヒュッテ、右がロッジ立山連峰。 8時19分、剱御前小舎に到着。
剱沢と剱岳 剱岳と彼方に白馬岳
剱岳。写真の中央やや左上に「カニのタテバイ」、その左に「カニのヨコバイ」が確認できる。  新室堂乗越に向けて下る。
一の越山荘と槍ヶ岳 槍ヶ岳
ミヤマアキノキリンソウ ミヤマダイコンソウ
タテヤマリンドウ タテヤマリンドウ
シシウド チングルマ
コケモモの実
オヤマリンドウ タテヤマリンドウ
右から浄土山、立山、真砂岳。 雄山、大汝山、富士ノ折立。
9時38分、新室堂乗越。剱御前小舎から下ってきた斜面を振り返る。 10時7分、雷鳥沢まで下りてきた。
ミクリガ池と立山 11時34分、ホテル立山がすぐそこに。



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