仙丈ヶ岳登山記

2019年8月5日〜6日

 8月4日の昼過ぎに家を出て、一抹の不安を抱えながらも伊那市内のビジネスホテルに投宿。一抹の…というのは、この日の朝から右足首の辺りに感じたことのない痛みが出ていた。とりあえず薬局で湿布を買い求め、翌朝に備えた。
 6時30分に宿を出発、登山バスの出る仙流荘までは20キロ、30分ほどの行程だ。
 仙流荘のすぐ先に350台ほど入れる大きな駐車場があって、ここから南アルプス林道バスで北沢峠に向かう。バスは6時5分に第1便が出て、次の便は8時5分発である。中型バスなので座席数を心配して早くに着いたが、さすがに1時間も前だから2番目だった。もっともそんな心配は無用だったようで、バスは2台出た。
 バス乗り場の地点の標高は870mほどで、到着地点北沢峠の標高は2035m。距離24km、標高差1200m近くの林道を50分ほどで上っていく。
仙流荘駐車場。月曜の朝だが駐まっている車は結構多い。  仙流荘横にある南アルプス林道バスの乗り場。 
南アルプス林道バス、北沢峠に到着。  北沢峠バス停の脇にクリンソウの群落があった。1段に花が9輪咲くからクリンソウだそうな。
 北沢峠から仙丈ヶ岳への登山ルートは大別して2コース。
@大平山荘まで下って薮沢を登る。
A小仙丈ヶ岳経由で登る。
下りは、周回コースにするか、ピストンにするか。@とAの間道をトラバースするというのもあり。
 私たちは手持ちの案内本にしたがって@を登り、Aを下るルートを選択した。しかし、この日に@を登ったのは私たち以外にはなかったように思う。周回して@を下ってくる人には出会ったが、多くの人は@をピストンしているみたいだ。
 薮沢を上って仙丈小屋に至るコースの標準所要時間は3時間50分。今回は所要時間×1.2のスロー登山を実践する。設定時間は4時間36分である。
 9時5分、北沢峠出発。バス道をわずかに戻って林間に入り、標高1955mほどの大平山荘まで下る。右足首の違和感は変わらずに残っていたが、歩いたからといって痛みが増すわけでもなさそうだ。行くしかない。小屋の横から樹林帯の登山道に入り、しばらく行くと急登になり、やがて薮沢に出る。11時近くになっていただろうか。
 左岸に渡り(上流に向かっているので川の右側)沢筋の道を登る。日差しは強いが、吹く風が心地よい。振り返れば正面に甲斐駒ヶ岳がある。ただ、この道は結構急なザレた直登で、下りにだけは使いたくないと思う。
 12時5分、大滝の頭からのトラバースと出会う。そこで沢と離れ、15分ほど登ると馬の背ヒュッテに着いた。さらに15分の登りで馬の背、そこからは尾根道をたどる。やがて行く手に小屋が見え、最後の一登りで標高2885mに建つ仙丈小屋着。時刻は午後1時30分、休憩込みの所要時間4時間25分は上々だ。
大平山荘。小屋の右から登山道に入る。 小屋の前から北アルプスを望む。槍ヶ岳から穂高の稜線が見える。
登山道に入って30分、振り向けば鋸岳(2685m)。 タカネグンナイフウロ
オトギリソウ クルマユリ
出発から約2時間、後方に甲斐駒ヶ岳の山頂部が見えるようになる。 甲斐駒ヶ岳と右のコブは摩利支天。
シナノキンバイ マルバダケブキ
右岸に滝が見える。一服の涼。 12時5分、大滝の頭からの道との出会い地点通過。
チシマギキョウ  12時20分、馬の背ヒュッテ前を通過。 
12時38分、馬の背分岐を通過。  尾根道から甲斐駒が見える。 
12時55分、仙丈小屋が見える。ここから一旦下って上り返す。  ハクサンイチゲ 
 仙丈小屋は小さな小屋で、部屋は建物の3階部分に大部屋が2つ。収容人数は55名となっているが、一人当たり布団0.5枚の計算でこの人数。そして、8月5日の夜はまさにこの計算式通りになった。
 真夏の高山の昼下がりは雲や霧の影響で展望は期待できない。そんな時は、やっぱり生ビールに限る。ヘリで空輸されてくる生ビールはそれなりの値になるが、下界では味わえない至福の1杯。贅沢だねえ。
 5時から夕食があって、歯磨きを済ませてそろそろ寝る準備をしようかと考えていた6時20分ごろのこと。一角に人だかりができていて、近づいてみるとライチョウの群れがいるではないか。急ぎカメラを取りに戻り、人の輪に加わった。登山道の脇はハイマツの群落で、そこから夕餉を摂りに親鳥がヒナを引き連れて出てきたというわけだ。その数は10を超している。早い冬が来る前に、太れるだけ太る必要がある。冬を生き抜くために、夏の花を盛んについばんでいる。
 6時40分、甲斐駒ヶ岳が夕照に赤く染まった。それをカメラに収め、部屋に戻った。いささか窮屈な床に就く。
仙丈小屋。2階に玄関があって、受付の奥が食堂。客室は3階に2部屋。板壁の中央左が部屋の境目で、左の部屋へは食堂脇から急な階段で上がる。右の部屋へは外階段で上がる。トイレと洗面台は外へ出て建物の右奥へ。 生ビールと仙丈ヶ岳。900円のしあわせ。
午後6時35分、人だかりの前にライチョウの群れ。 残照の仙丈ヶ岳。カールの右上のピークが頂上。
ライチョウ。親鳥で保護観察の対象らしき鑑札が見える。 盛んに花をついばむライチョウの親子。
6時40分、甲斐駒ヶ岳が夕照に染まる。 小屋の上には細い月が出ていた。
 8月6日午前3時50分、起床。小屋は夜8時に消灯し、朝4時に点灯する。外に出ると東の空は明けてきているが、足もとは暗い。ライトを頼りに仙丈ヶ岳の頂上をめざす。30分ほどの登りで到着。ここで4時58分の日の出を待つ。
 東の空の雲は赤に染まり、朱に染まり、橙に染まり、少しずつその明度を上げていく。4時58分、甲斐駒と鳳凰三山の間、長野・山梨県境にある瑞牆山から金峰山のあたりからご来光。
 振り向けば、雲海の向こうには中央アルプスの峰が続いている。そのすぐ右には乗鞍岳、やや後方には御嶽山が聳えている。そして、何と言うことだろう。中央アルプスに巨大な虹が架かっている。雲海と、朝焼けの雲と、虹の彩りと…。幻想的でもあり、神々しくもある。
午前4時30分、東の空が明けていく。  雲海がピンクに染まる。 
御嶽山(3067m、百名山) 槍・穂高連峰 
   甲斐駒ヶ岳
   
 午前4時58分、日の出。  
中央アルプスに架かる虹。   
 槍・穂高連峰  
 チシマギキョウ  
5時20分、小屋へ戻る登山道にて。
中央アルプス。右の塊中央の錐が宝剣岳(2931m)、2つ右のピークが木曽駒ヶ岳(2956m、百名山)。 
御嶽山に日が差し始めた。 
穂高連峰。右から北穂高岳(3106m)、涸沢岳(3110m)、奥穂高岳(3190m、百名山)、奥穂の左奥がジャンダルム、手前が前穂高岳(3090m)。   右から槍ヶ岳(3180m、百名山)、大喰岳(3101m)、中岳(3084m)、南岳(3033m)。南岳の左が大キレット。槍の肩に槍ヶ岳山荘が見えている。
5時30分、小屋に戻ってきた。
乗鞍岳(3026m、百名山) のスカイラインが見えている。
奥穂高岳、前穂高岳、そしてジャンダルム。この見え方はこれまでの登山経験ではなかったかも。 
槍ヶ岳と北鎌尾根。右奥は薬師岳か。  槍・穂高の右方に立山連峰。立山(3003m、百名山)、右は別山(2880m)。 
剱岳(2999m、百名山)  立山連峰の右に後立山連峰。鹿島槍ヶ岳(2889m、百名山)。 
 小屋に戻って朝食を摂り、6時15分に下山開始。北沢峠からのバスは10時と13時10分。あとのことを考えると、10時の便に乗りたい。下りの標準所要時間が2時間50分、しかしいつもは登りと同程度の時間がかかっているからそれだと4時間10分。制限時間3時間45分と微妙な数字だ。
 小屋の前の道をトラバースして15分ほど行けば、小仙丈尾根の登山道に出る。振り返るとはるか下に仙丈小屋が、そして朝登ってきた仙丈ヶ岳の頂上が見える。尾根道の進行方向右手には、北岳から間ノ岳の稜線と、左奥にある富士山が見える。日本一高い富士山(3776m)と2番目に高い北岳(3193m)と、3番目に高い間ノ岳(3190m、奥穂高岳も同じ高さ)が同時に見えて、1枚の写真に収まる。そんなロケーションの中の尾根歩きである。何とも贅沢な山旅だ。
 7時10分、小仙丈ヶ岳(2864m)着。ここからは、仙丈ヶ岳の山頂部や薮沢カールが実にきれいな姿を見せてくれる。
 五合目の大滝ノ頭で時計を見ると8時。その後三合目までは順調すぎるペース、というより実は明らかなオーバーペース。いつもの膝の痛みが出ないことをいいことに走りすぎ、三合目過ぎで急に足が止まる。どうやらエネルギー切れらしい。最後はヘロヘロになって、9時30分に北沢峠のバス乗り場にたどり着いた。それにしても3時間15分は出来過ぎだと思うけど。
 10時の定刻10分前に臨時便が出て、10時半過ぎには仙流荘に着いた。ここの風呂で汗を流し、夕刻には自宅に戻った。
 
6時15分、小屋の前でメモリアル写真を撮って下山開始。  登山道へトラバースして登っていく。下方に仙丈小屋が小さく見える。 
 ミヤマダイコンソウ チングルマ 
小仙丈尾根に出てしばらく進むと、右手に北岳と富士山が見えてくる。  左から富士山(3776m、百名山)、北岳(3193m、百名山)、間ノ岳(3190m、百名山)。高さ日本1、2、3位の三山同時撮。 
富士山  北岳 
7時12分、小仙丈ヶ岳(2864m)着。  振り返ると、仙丈ヶ岳(3033m、百名山)の山頂部稜線と薮沢カールの優美な姿が見える。 
北岳と富士山  農鳥岳と塩見岳、荒川三山などなど。 
甲斐駒ヶ岳  甲斐駒ヶ岳 
左後方に御嶽山、右後方に乗鞍岳。  御嶽山 
乗鞍岳  槍・穂高連峰 
槍ヶ岳から南岳の稜線  後立山連峰の鹿島槍ヶ岳、五竜岳、唐松岳かな? 
8時3分、五合目(大滝の頭)通過。   仙流荘  



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