雪嶺望岳雪山歩き

2019年1月6日〜1月9日

 アルプスの雪嶺を眺めるために雪山に登る。−−それが今回の旅のコンセプトである。3000m級の雪山に登ることなど一生あり得ないが、雪嶺には心惹かれる。もちろん平地からでも頂上部を見ることはできるが、高所からの眺めはさらにいい。1〜2時間で頂上に着き、そこからの眺望が開けている山に、1日1座登頂しては雪嶺を愛でるというツアーである。
1月6日(日)】 村上山 1746m 
 朝、車で家を出て、小諸の草笛という蕎麦屋さんで名物のくるみそばを食べ、2時前には群馬県嬬恋村・休暇村嬬恋鹿沢に到着。
 休暇村の敷地が村上山の登山口になっている。村上山は標高1746mの山で、特に名の通った山というわけではないが、山頂からは目と鼻の先に浅間山が望める。
 計画段階では登山予定がなかったのだが、途中の立ち寄り予定先の天候が思わしくなかったので早く着いてしまい、チェックインまで間があるので足慣らしに登ることにした。休暇村のホームページに「標高1400mの高原の魅力と温泉の恵みを堪能できる休暇村嬬恋鹿沢」とある。つまり登山口が1400mの高さにあるのだから、そこから350mほど登れば良い。2017年の1月にもスノーシューで登ったのだが、今年は雪が少なく、踏み跡をたどればスノーブーツでこと足りた。
 最後の急登をのぼりきると尾根に出る。そこの木の間からと、少し登った先の山頂からは、浅間山が見える。浅間山は日本百名山の1つで、標高が2586mの活火山である。白い噴煙とともに、噴出物によるザラザラとした山肌がはっきりと見える。
村上山から浅間山(2586m)を望む 南東方向に火口を見る
【1月7日(月)】 湯ノ丸山 2101m
 群馬県嬬恋村にある休暇村から山を1つ越えると長野県東御市である。県境の地蔵峠に湯の丸スキー場がある。駐車場に車を停め、身支度をして湯ノ丸山に登る。今回は登山靴にアイゼンを装着した。
 車の温度計が−8℃を表示していたが、日差しがあるので寒さは感じない。標高は1730mある。めざす湯の丸山は2101mだから、370mの登りになる。
 ゲレンデ脇の林道からゲレンデの上部に出ると1850m地点。そこからしばらく平坦な道が続き、やがて行く手に湯ノ丸山が見えてくる。雪を踏むアイゼンの音が楽しくさえある。その先の分岐が本当の意味での登山口で、標高が1825m。ここから1900m地点までは比較的緩やかに登り、最後に200mを一気に登る急登だ。振り返れば、富士山が見えている。
 汗をかかない速さで1時間半、頂上に到着。山頂からは360°の絶景展望が広がる。早速カメラを構えるが、強風に体が揺れる。
 見える嶺はその日の雲と光線次第、登った山の上空が青空でも遙か彼方の景色は運任せである。本日この時間帯(11時ごろ)の状況は、北アルプス、中央アルプスともに山頂部に雲がかかっている。南アルプスは距離と光線の関係で不鮮明。八ヶ岳は霞んでいるが山容ははっきりとらえられる。最も近くにある浅間山ははっきりくっきり見えている。
 確認できる百名山は、富士山(3776m)、八ヶ岳(主峰・赤岳2899m)、蓼科山(2530m)、浅間山(2568m)。なぜか写真に写っていないが、四阿山(あずまやさん・2354m)は足もとに見えていたはずだし、その彼方に妙高山(2454m)と火打山(2462m)も見えていたかもしれない。風の強さに圧倒されて丁寧に確認できていない。
 しばらく待っていると、山頂部が雲に隠れていた槍ヶ岳(3180m、もちろん百名山)から大喰岳(3101m)、中岳(3094m)、南岳(3032m)と続く稜線が姿を現してくれた。それに続く北穂高岳(3106m)までは確認できるが、穂高主峰の奥穂高岳(3190m、百名山)は雲の中だった。
 1時間ほどで下山、駐車場に戻って車で長野県側に下った。峠からの道を半分以上下った辺りの集落(標高900〜1000m)から、なんと槍ヶ岳が見えているではないか。思わず停車して、シャッターを切った。山頂から見た時よりも幾分雲が晴れ、北穂と隣の涸沢岳もはっきりと見えている。フツーの生活の中でこんな景色が見られるなんて、うらやましい限りである。
 松原湖まで南下し、そこから少し山に入ったところに小海リエックスホテルがある。シャトレーゼのホテルで、アイスクリームやケーキを買ったポイントを使うと夕食代のみで泊まれる。ホテルは標高1400mに建っていて、南西に八ヶ岳の天狗岳(2646m)・硫黄岳(2760m)・横岳(2825m)が間近に見える。そして、北東方向の林間と温泉からは浅間山を望むことができる。
雪原の行く手に湯ノ丸山が見える 樹氷が輝いている
急登中、振り返れば富士山が… 湯ノ丸山頂上(2101m)。山名表示の柱の向こうに見えるのが北アルプス。柱のすぐ左が槍ヶ岳なのだが、雲の中。
樹氷 強風により「エビのしっぽ」状態に
浅間山山頂部 村上山よりも若干南からの眺めになる
八ヶ岳方面。右寄りのピークが蓼科山(2531m)で、そこから斜め左奥方向に嶺が続き、左端のピークの中に赤岳がある。この写真の大きさでは見えないが、緑の山容の上に白いピークが3つ確認できる。南アルプス北部の嶺の山頂部のようだ。 雲が流れて槍ヶ岳と周辺の嶺が見えてくる。中央が槍ヶ岳、左隣が大喰岳、その左が中岳、雲がかかっているのが南岳、左端が北穂高岳。写真一番手前の右端、美ヶ原(2034m、これも百名山)か。
槍ヶ岳 槍ヶ岳
峠からの下り道から槍・穂高の嶺が見える 家に居ながらにして、こんな槍ヶ岳が見えるなんて。手前の大きな雪山が常念岳で、そこから大天井岳に向かって峰が続き、左に折れて槍へと表銀座の稜線がつながっている。
右に北穂高岳、中央が涸沢岳、左の雲に隠れているのが奥穂高岳 ホテル敷地からの八ヶ岳。正面が硫黄岳(2760m)、左が横岳(2825m)。
小海リエックスから見る浅間山。北東方向に見ている。湯ノ丸山では、この写真で言うと左上の方向から見ていたことになる。 頂上奥から噴煙が上がる。手前の山肌はかつて溶岩が流れ下った痕跡を今に伝えている。
【1月8日(火)】 入笠山 1955m
 南北に延びる八ヶ岳の中間あたりの東側で朝を迎え、八ヶ岳の南東にある入笠山へと移動する。八ヶ岳の裾野を走るわけだが、残念ながら山の上には雲が出ていた。ところが、道中には思いもかけないご褒美が待っていた。南アルプスの眺めである。
 北岳(3193m・富士山に次ぐ2番目の高山)と間ノ岳(3190m・3番目の高山)の絶景ポイントが現れ、そこから少し走ると甲斐駒ヶ岳(2967m)のビューポイントがあった。いずれも日本百名山の名峰だ。そしてまたそこから少し先に、北岳の雄姿が…。そのたびに車を停めてはカメラを構え、この方向からの南アルプスの写真は初めてとあってそれだけで大満足だった。
 富士見町にある富士見パノラマスキー場の駐車場に車を停め、ゴンドラで1770m地点まで上がる。ゴンドラを降りるとゲレンデで、正月休み明けとはいえスキーヤーやスノーボーダーの姿が見える。滑走者の邪魔にならないように登山靴でそっと移動し、目の前に広がる八ヶ岳と裾野の風景をカメラに収めた。
 めざす入笠山は標高が1955mで、ここからの標高差は200m足らずだ。一旦標高1730mほどの湿原まで下り、標高1790mのマナスル山荘まで上がっていく。ここは1年前に泊まった山小屋で、昨年は道中スノーシューを使ったが今年はアイゼンさえ必要なかった。
 ここが入笠山の登山口で、アイゼンを装着しストックを持った。山頂までは30分ほどの行程で、途中で岩場コースと迂回コースの分岐がある。どちらも頂上まで15分と表示されている。行きは岩場コース、帰りは迂回コースをとる。短い行程だか岩場コースは急登だ。
 入笠山の山頂は絶景展望台で、日本百名山が31座見えるらしい。もっとも1度に31座が見えることなど滅多になく、それはその時の諸条件に依拠する。まさに運次第。さて本日の運はというと、一応マルだけれど去年に比べると小さいマルだ。
 目の前の八ヶ岳(主峰・赤岳2899m)は南端から北端まできれいに見渡せる。北端の蓼科山(2530m)も百名山の1つ。長い嶺を北東方向に見ているわけで、湯ノ丸山からとは真逆方向の眺めである。そこから左奥に北アルプスが、さらに中央アルプスが位置するが、本日は雲の中。
 八ヶ岳から右に目を移すと、富士山(3776m)が薄く見える。その右には甲斐駒ヶ岳(2967m)が大きく見え、右に間ノ岳(3190m)が見える。その右に仙丈ヶ岳があるのだが、これまた雲の中。視認できる百名山は5座であった。
 マナスル山荘に戻って昼食をとり、下山ののち車で南下。伊那谷にある中川村・望岳荘に投宿した。目の前に中央アルプスが広がるというロケーションだが、天候は下り坂。
小海リエックスホテルで迎える日の出 小淵沢方面へ走行中、北岳と間ノ岳の絶景ポイントが…。右の北岳は標高3193mで富士山に次ぐ2番目の高さ。左の間ノ岳は標高3190mで奥穂高岳とともに3番目の高さ。
北岳 橋の手前の駐車スペースから。八ヶ岳のビューポイントだろうが、雲の中。橋脚とともに写したのは南アルプス。右の大きな山が甲斐駒ヶ岳、左の方に白く見えるのが北岳。
道路脇に停車して北岳を撮る。陰影がきれいだ。 甲斐駒ヶ岳の絶景ポイント現る。この角度からは山の大きさがよく分かる。主要登山路の裏側の山容で、この向こうに仙丈ヶ岳が隠れている。
甲斐駒ヶ岳は百名山の1つで標高2967m 甲斐駒ヶ岳
もう一度、北岳 富士見パノラマスキー場から八ヶ岳の眺望
八ヶ岳連峰の右端近くに権現岳(2715m)が見える 入笠山山頂(1995m)
入笠山山頂から見る八ヶ岳連峰。右端から左に編笠山(2524m)、白いのが権現岳(2715m)、左の奥が赤岳(2899m)、手前が阿弥陀岳(2805m)、横長の横岳(2829m)、中央あたりが硫黄岳(2742m)、となりが天狗岳(2646m) 、縞枯山(2403m) 、北横岳(2480m)と続き、もっとも左に蓼科山(2530m)がある。
右奥が赤岳(2899m)、手前が阿弥陀岳(2805m) 八ヶ岳の主峰・赤岳(2899m)〈日本百名山〉
権現岳(2715m) 蓼科山(2530m)と茅野の街
蓼科山(2530m)〈日本百名山〉 富士山(3776m)
甲斐駒ヶ岳(2967m)。道中で見た時と比べると大きく右に回り込んだことになる。 甲斐駒ヶ岳(2967m)
間ノ岳(3190m) 間ノ岳(3190m)
【1月9日(水)】 陣馬形山 1445m
 天気の崩れは思っていたより小さかったようで、標高600mほどの所に建つ望岳荘周辺でも雪は降らなかった。ただ、中央アルプスの山頂部は黒っぽい雲に隠れたままだった。
 望岳荘から車でわずかに行くと陣馬形山の登山口である。1時間半ほどの登山であるが、頂上200m手前のキャンプ場まで車道がある。幸い積雪もなさそうなので、車で行ける所まで行くことにした。途中、うっすらと雪が残っている箇所もあったが、キャンプ場まで車で上がれた。200m歩くだけでは登山とは言えないが、今回は山頂での時間確保のための選択肢ということで。
 標高1445mの陣馬形山は決して高い山ではないが、周りに遮るもののない360°展望台。山頂部の雲が結構厚くて見える山は限られるだろうが、北の美ヶ原方面から反時計回りに中央アルプス、恵那山から御嶽山方面、南アルプス方面の嶺々が展望できるようだ。強風に耐えながら、ここで1時間15分ねばることになる。
 中央アルプスの雲は容易にとれなかったが、流れが速くタイミングによっては頂上が見えることもあった。空木岳は最後まで駄目だったが、宝剣岳(2931m)と千畳敷カールは撮影に成功した。木曽駒ヶ岳(2956m・百名山)の頂上は、宝剣岳の右後ろにわずかに頭をのぞかせている。中央アルプスの左にある百名山の恵那山(2191m)ははっはりと見えた。
 さて南アルプスだが、雲は南方向に流れゆき、時間の経過とともに見える山域が増えていった。まず仙丈ヶ岳が顔を出し、つづいて白峰(しらね)三山が見えてきた。仙丈ヶ岳(3033m・百名山)の迫り来る大きさに圧倒される。白峰三山は北岳(3193m・百名山)、間ノ岳(3190m・百名山)、農鳥岳(3126m・二百名山)の総称で、北岳・間ノ岳をこの方角から大きく見るのは初めて、農鳥とそれより南の山に至っては全くの初見である。感動に次ぐ感動、まさに感動のオンパレードだ。
 未知の世界が広がる。白峰三山のずっと右手に見える大きな山、塩見岳(3047m・百名山)だ。さらに右には、眩しくて見づらいのだが荒川三山が見える。三山の左端が百名山の悪沢岳(3141m・別名東岳)で、右の大きな山塊の中ほどが中岳(3084m)で右よりに前岳(3068m)がある。荒川三山は写真に撮れてなかった。残念。荒川岳の右手の白い塊が百名山の赤石岳(3121m)。南アルプスは赤石山脈を指すから、赤石岳はこの山脈名由来の山である。そこからしばらく離れた右に聖岳(3013m・百名山)が見える。聖岳は富士山を除けば最も南に位置する3000m峰である。
 風の冷たさも忘れてひたすら雲の流れを追い、カメラを構えては嶺を愛で、あっという間に時間が過ぎていった。100枚近い写真を撮り、それでも立ち去りがたく後ろ髪を引かれつつ山を下りた。
陣馬形山山頂(1445m)から中央アルプスを見る。中央のピークが南駒ヶ岳(2841m)、その右の白いのが空木岳(2864m・百名山)の山腹で、最も高いあたりに宝剣岳(2931m)がある。 南駒ヶ岳(2841m)
中央アルプスの左(南)側の眺め。右寄りの黒っぽい雲の下に恵那山(2191m・百名山)が見える。 中央アルプスの右(北)側の眺め。低く垂れ込めた雲の下に美ヶ原方面の山がある。
中央アルプスの真後ろ側の眺め。左はしに荒川三山(悪沢岳3141m・百名山)の一部があって、その右が赤石岳(3121m・百名山)。中央右のピークが聖岳(3013m・百名山)で、右後ろにあるのが兎岳(2800m)。右端のピークが奥茶臼山(2474m・三百名山)である。 仙丈ヶ岳に懸かっていた雲が流され、山頂が見えてくる
一瞬、木曽駒ヶ岳が見える。中央のピークが宝剣岳(2841m)。宝剣岳の下が千畳敷カールで、カール底部の左にロープウェイの駅舎が見える。 宝剣岳(2841m)と千畳敷カール。木曽駒ヶ岳(2956m・百名山)の頂上は、宝剣の右の白いわずかな盛り上がり部分。中央アルプス駒ヶ岳ロープウェイの駅舎とホテル千畳敷の建物も見える。
左端に仙丈ヶ岳(3033m・百名山)。その右に白峰(しらね)三山の眺め。中央部の左が北岳(3193m・百名山)、真ん中が間ノ岳(3190m・百名山)、間ノ岳のすぐ右で緑の山の後ろに白く見えるのが農鳥岳(3026m・二百名山)。そこからずっと右の雲の下に塩見岳(3047m・百名山)がある。
仙丈ヶ岳(3033m・百名山) 右のピークが大仙丈ヶ岳(2975m)で左のピークが仙丈ヶ岳(3033m・百名山)。頂上から左手前に延びる地蔵尾根も登山路ではあるが、一般的には頂上の裏に登山ルートがある。そして向こうには甲斐駒ヶ岳が隠れている。
仙丈ヶ岳(3033m・百名山) 仙丈ヶ岳(3033m・百名山)
白峰(しらね)三山の眺め。左が北岳(3193m・百名山)、真ん中が間ノ岳(3190m・百名山)、緑の山の後ろに白く見えるのが農鳥岳(3026m・二百名山)。 北岳(3193m・百名山)
北岳(3193m・百名山) 北岳(3193m・百名山)
農鳥岳(3026m・二百名山) 農鳥岳(3026m・二百名山)
塩見岳(3047m・百名山) 塩見岳(3047m・百名山)
荒川三山。左端が悪沢岳(3141m・百名山・別名東岳)、右が中岳(3084m)と前岳(3068m)。 赤石岳(3121m・百名山)
 山の景色に惚れて中川村に転居した友人がいて、帰り際にお宅に立ち寄った。
 家に帰ってメールしたら、夕方にはすっかり晴れて中央アルプスがくっきり見えていると返信があった。惜しいとも言えるが、それだからこそ面白いとも言える。だからまた行ってみたいとも思えるわけだ。感動は底なしで飽くことはない。しかし、今回の4日間は大満足の「山旅」だった。また出かけよう、あの嶺たちの懐(ふところ)へ、そしてできるなら頂(いただき)へ。



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