燕岳再訪記

2015年6月15日~16日

■6月14日(日)■
 2007年8月、初の山小屋泊登山で登った燕岳。今回が二度目の燕岳である。

 燕岳登山口のある有明温泉の少し手前、有明温泉有明荘に前泊する。穂高の街から1~1.5車線幅の山岳道路を10数キロ上った地に建つこの宿は、安曇野市営の国民宿舎ではあるが燕山荘が経営している。部屋にトイレがなく、蒲団を敷くのがセルフである点を除けば歴とした温泉宿で、何と言ってもお湯がいい。それでいて、1泊2食で1万円でお釣りがくる。

■6月15日(月)■
 昨晩、夕食後に受け取った弁当を食べ、6時20分有明荘出発。
 700mほど先にある登山者用駐車場に車を停め、登山口に向かう。ここで登山届けをポストに入れ、いよいよ登山の始まりだ。6時46分。

 登山口から燕山荘までは、距離にすると5.5kmに過ぎない。しかし、北アルプスの3大急登に数えられるだけあって、ずうっときつい上りが続く。

 第一ベンチ着、7時24分。登山口から1km、所要時間は38分。7時33分発。
 第二ベンチ着、8時1分。第一ベンチから0.7km、所要時間は28分。8時7分発。
 第三ベンチ着、8時42分。第二ベンチから1km、所要時間は35分。登山口からここまでが2.7km、ここから燕山荘までが2.8km。つまり、第三ベンチは行程の中間点である。もう半分も来たと感じるか、まだ半分しか来ていないと感じるかは体調や気分次第である。けっこうきついが、まだまだ元気。8時48分発。

登山者用駐車場 登山口。白い箱が登山届けポスト 登山開始、6時46分 いきなりの急登
第一ベンチ、7時24分 急登が続く 第二ベンチ、8時1分 第三ベンチ、8時42分
ゴゼンタチバナソウ イワカガミ
 富士見ベンチ着、9時25分。第三ベンチから0.9km、所要時間は37分。名前の如く富士山が見えるポイントなのだが、今回は雲に遮られ何も見えない。9時34分発。
晴れていると、富士山が見えるハズ。写真は前回の登山時に撮影。
 合戦小屋着、10時4分。富士見ベンチから0.7km、所要時間は30分。ここで大休止。合戦小屋と言えばスイカなのだが、今はまだシーズン前だ。ここは有明からの荷揚げケーブルの終点になっていて、数人の若者が燕山荘に運ぶ荷物を整理していた。そして、その内の2人が、重い背負子を背に歩き出していった。その後を追うように、私たちも出発。10時29分。

ヤマツツジが咲いている ガマズミ 富士見ベンチ、9時25分 さらなる急登
合戦小屋着、10時4分 ナナカマドの白い花 合戦小屋発、10時29分
ナナカマド ショウジョウバカマ
 合戦小屋からひと登り、400mで合戦の頭に出る。やっと尾根に出たわけで、燕岳の頂上や燕山荘、そして槍ヶ岳が見えてくるのだが、今日は霧の中。目の前に見えるのは、雪。
 雪道はアイゼンを着けるほどでもなかったが、緩んだ雪は滑りやすく、キックステップなどという慣れないテクニックを使いながら慎重に進む。それでも、右手の斜面が切れ落ちた箇所などではちょっと足がすくむ。この雪の下では「春」を迎える準備が整えられているのだろう。雪が消えた斜面では一斉に芽吹き、そして花を咲かせている。サクラが数輪、花を付けている。自然は強い。
 燕山荘直下の斜面は未だ深い雪で覆われ、そのため「冬道」と呼ばれる急斜面を登ることになる。強風が霧を運び、散らせ、また運ぶ。その隙間に燕山荘が見え、やっと槍の穂先が姿を現し、あっと言う間に白いベールに包まれる。
 最後の急登を登り切ると、燕山荘の裏に着く。合戦小屋から80分、11時50分の到着だ。登山口からの実歩行時間は4時間8分。愛用のガイドブックに載っている標準タイムと8分しか違わない。ゆっくり写真を撮りながら登ってきた割には、速すぎるほどのタイムだ。まだまだ若い?

合戦の頭、残雪が見える 雪道を行く サクラ シナノキンバイ
霧が散って燕山荘が見える 霧の合間に槍が覗く 冬道、最後の急登だ 燕山荘着、11時50分
 燕山荘の表に回ると、前庭が絶好のアルプス展望テラスになっている。高瀬の谷から吹き上げる強風に、噴き出していた汗がスッと引いていく。雲が厚く、眺望はイマイチだが、谷向こうに聳える山並みは何度見ても息を呑む絶景だ。左端にあるはずの穂高連峰こそ雲に隠れているが、南岳から槍ヶ岳に繋がる山塊が見える。その右手すぐ西鎌尾根の奥に笠ヶ岳、その手前右に双六岳、三俣蓮華岳と続き、正面に鷲羽岳、さらに水晶岳が見える。山座同定が心許ないが、黒部五郎岳や野口五郎岳も見えているはずだ。右手に燕岳の山頂が聳え、その背後に立山連峰・後立山連峰が控えているが、これらは雲の中だ。

 しばらく休憩をして、燕岳頂上をめざした。燕山荘からは30分あまりの距離だ。
 燕岳は花崗岩の山で、そのため山肌が白っぽく見えている。また、奇岩の造形美もこの山の特徴で、イルカ岩やメガネ岩などと名前が付けられている。
 さらには、コマクサの大群落があることもこの山の魅力だが、花の時期は1月ほど先になる。とは言え、早い株では蕾が大きく育ち、開花が近いことを窺わせている。ところで、コマクサは駒草と書くのだが、蕾の形が馬面、つまり「駒」の顔に似ていることからこの名が付いている。高山植物の女王と言われる花の名としては、いささか興醒めのする由来に思える。

 花崗岩の造形美を楽しみながら歩いていると、斜面のはるか上方に鳥の動くのが見えた。ライチョウだ。こちらは衣替えも済んだようで、夏毛を纏っている。しばらくお尻を向けて歩いていたが、ふと立ち止まり体の向きを変えた。1400ミリレンズがとらえた1枚は、カメラ目線のようにも見える。

 いくつもの奇岩が林立する内の1番高い先が頂上で、「燕岳頂上 2763m」の石盤が埋められている。

燕山荘の玄関 玄関前のテラスから北アルプスの山並みを望む
槍ヶ岳、穂先の右が孫槍で隣が小槍 霧を纏った燕岳
ハクサンイチゲ ミヤマキンバイ
コマクサの蕾 オオバキスミレ
イルカ岩の彼方に槍ヶ岳 イルカ岩と燕山荘
メガネ岩 奇岩と燕山荘
ライチョウが姿を見せる ライチョウがこっちを見ている?
燕岳頂上部 燕岳頂上に立つ
燕山荘全景、今も増築工事が進む 表銀座の稜線が大天井岳に向かって伸びる
 登山の楽しみは、もちろんそこから見える景色なのだが、生ビールも欠かせない。3時頃から喫茶スペースで寛ぎタイムに突入した。と、そのころから雨が降り出し、夕刻まで結構よく降った。
 6時から夕食。食堂に集まった宿泊客はわずかに9人だった。横須賀と横浜から来た若い夫婦が、やや離れた場所にあるテーブルを囲んだ。私たちのテーブルには、佐久から店長と従業員という女性2人と、八ヶ岳行者小屋で働いている女性1人が同席した。オフシーズンの平日ならではだ。
 夕食後はそそくさと寝ることが多いのだが、夕食で同席した人たちと8時半頃まで山談義に花が咲いた。まさに人生それぞれなんだけれど、山に集う人たちの人生は実に面白い。佐久の女性たちは、月曜の休みを使って毎月登山三昧で、劔岳なんて平気だったと恐ろしいことをしゃあしゃあと言ってのける。山小屋勤めの30過ぎかなと思しき女性は、会社勤めを辞めて山に入り浸ってしまったらしい。明日は大天井岳から常念小屋をめざし、明後日に常念岳から蝶ヶ岳を経て上高地に下りるらしい。私たちはというと、大天井岳に向かって表銀座の稜線を歩く計画で来たが、下り坂だという天気予報を聞いて、明日下山と決定した。

■6月16日(火)■
 午前4時、窓の外が白んでいる。雨は落ちていないが、雲が厚い。日の出は期待できないが、4時30分に外に出た。フリースの上にダウンを着て、それでちょうどいいくらいの寒さだ。
 4時45分、雲の切れ間から差す朝陽が雲を赤く染め出した。槍ヶ岳のモルゲンロートは見られなかったけれど、昨日お目にかかれなかった立山連峰や後立山連峰、鹿島槍ヶ岳が姿を見せている。
 5時30分から朝食を摂り、6時37分に下山の途に就いた。小屋の脇で、ライチョウが私たちを見送ってくれた。槍ヶ岳を背にした立ち姿を見ていると、この鳥がこの山の主であることを実感する。さらば燕、さらば槍、さらばライチョウ。最後には、穂高の山たちも姿を見せてくれた。

 下山はいつも膝痛とのたたかいである。
 合戦小屋着が7時52分、所要時間は71分。雪道下りはちょっと大変だったけど、至って順調。合戦小屋では女性が一人、朝の掃除をしていた。女性二人で泊まり勤務だそうだ。燕山荘グループに勤めていて、ここ8年は大天井岳にある大天荘にいて、9年振りに合戦小屋で働いているとのこと。昨日出会った女性然り、この女性然り、流行の山ガールではなく「山女」というのがいる。小休止の後、8時発。
 富士見ベンチ着が8時22分、所要時間は22分。順調。8時26分発。
 第三ベンチ着が8時51分、所要時間は25分。中間点まで2時間弱、うちのペースとしては上々。9時1分発。
 第二ベンチ着が9時30分、所要時間は29分。膝に異変有り、とうとう来たか。9時35分発。
 第一ベンチ着が10時8分、所要時間は33分。膝の痛み増す、ついに登りよりも遅いペースに。10時17分発。
 登山口着が11時5分、所要時間は48分。一層ペースダウン、どうにかこうにか到着という次第。総歩行時間は、3時間48分。まあ、よく頑張ったと自分を褒めておこう。

4時45分、東の空が赤く染まる 朝焼けが燕山荘のガラスを赤く染める
燕岳の背後、立山・後立山がかすかに赤らむ 燕の左奥に立山が見える
燕の右奥には鹿島槍ヶ岳の双耳峰 5時30分の朝食前の燕岳
6時37分、ライチョウに送られて下山開始 ライチョウと槍ヶ岳
ライチョウの眺める先に北アの山塊 槍ヶ岳の左奥に穂高連峰が見える
大天井岳 常念岳
大天井岳から伸びる稜線の奥に蝶ヶ岳が顔を見せている 見納めの槍。登りに見えればハッと息を呑む地点だ
合戦小屋、7時52分 登山口着、11時5分
 駐車場に戻り、今宵の宿探しだ。急遽予定変更で下山したために、泊まる所がない。登山後の定番になりつつある福地温泉の草円。飛び込みで受けてくれるかどうか心配したが、板長さんと相談の後OKの返事が来た。常連の強みかな。一安心で、有明荘の温泉で汗を流し、カレーライスを食べた。あとは、草円の温泉とビールが待っている。…

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